# 三月にしか減らない瓶｜誰かを待つのが仕事のバーテンダーが読んだ、「待つ」小説3冊

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> 작성자: admin
> 작성일: 2026-10-08T16:49:11.127Z

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※この記事は、文学の専門家による解説ではありません。一人のバーテンダーが、自分の店と重ねながら読んだ感想です。物語の結末や、大きな仕掛けには触れていません。

## はじめに

うちの店のバックバーには、百本あまりの瓶が並んでいます。

ショットバーなので、どの瓶もお客様の注文があるたびに、一杯ぶんずつ減っていきます。

でも、一本だけ、一年に一度しか減らない瓶がありました。

最上段の右の端にある、少し珍しい、癖の強いシングルモルトです。

この瓶を頼むお客様は、二十年でほとんど一人しかいません。

私は心の中で、その瓶を「三月の瓶」と呼んでいました。

頼むのは、中学校で理科を教えている女性の先生です。

この方は、三年生の担任をした年の、卒業式の週にだけ来られます。

扉を開けて、いつもの奥から二番目に座って、その瓶でハイボールを一杯。

そして、毎年同じことを言うのです。

「今年も、送り出しました」

それ以上、学校の話はほとんどしません。

一杯をゆっくり飲んで、三十分ほどで帰っていく。

私はその一言を聞くと、ああ、今年も春が来たなと思うようになっていました。

ところが、去年の三月、その方は来ませんでした。

今年の三月も、来ませんでした。

瓶の中身は、二年前の春から一滴も減っていません。

棚卸しのたびに、私はその瓶を手に取って、残りの量を確かめ、拭いて、元の場所に戻してきました。

開けてから時間がたちすぎると、香りが抜けてしまうのではないか。

そんな心配までしながら、どこにも出さずにおいていました。

拭きながら、いろいろなことを考えました。

体を壊したのではないか。

引っ越したのではないか。

うちの店に、何か気に入らないことがあったのではないか。

気がつくと、私の頭の中で、あの方は「三月にしか来ない人」から、「来なくなってしまった人」という物語の登場人物になっていました。

待つことには、知らないうちに物語をこしらえてしまう力がある のだと思います。

今日紹介する三冊は、そんなことを考えていた秋に、ちょうど同じ週に書店に並んだ小説です。

七年待たれた物語の続き。

終わりの日が決まった一年の物語。

そして、待ち続けた犬を、人間たちがどう語ったかの物語。

三冊とも、それぞれ違う形で「待つこと」を描いていました。

## この記事は、こんな人に向けて書いています

・しばらく小説から離れていて、久しぶりに物語に戻りたい人

・誰かからの連絡や、何かの結果を、ずっと待っている人

・「十二国記」の新刊が出たと聞いて、読もうか迷っている人

・泣ける小説を探しているけれど、ただ泣かせるだけの話は苦手な人

・犬が好きで、犬と人間の歴史にも興味がある人

一つ目と二つ目に当てはまる方には、二冊目をとくにおすすめしたいと思っています。

## 今日の三冊を、こういう順番で並べました

一冊目は、待ちわびる側の物語です。

正確に言うと、物語の中身より先に、物語そのものが長く待たれてきた本です。

二冊目は、終わりの日を数える側の物語です。

春までしかいないと分かっている先生と、その一年を過ごす生徒たちの話です。

三冊目は、待つ姿を、外から眺めて語る側の物語です。

駅で待ち続けた一匹の犬を、人間たちがどう「物語」にしていったのか。

待ちわびる。

数える。

語られる。

カウンターの内側で二十年、毎晩誰かを待ってきた人間として、この三つの顔は、どれも身に覚えがありました。

## 一冊目｜待ちわびる｜『幽冥の岸 十二国記』小野不由美

新潮文庫／2026年9月17日／368ページ／825円（税込）

説明するまでもないかもしれませんが、「十二国記」は、十二の国からなる異世界を舞台にした、小野不由美さんの長いシリーズです。

シリーズの累計は1,400万部を超えているそうです。

本書は、2019年の『白銀の墟 玄の月』以来、七年ぶりの新刊になります。

2026年9月第4週には、丸善 丸の内本店、丸善 日本橋店、紀伊國屋書店 新宿本店の三店すべてで、文庫部門の1位に入っていました。

同じランキングの下のほうには、シリーズの入口にあたる『月の影 影の海』の名前も見えます。

新刊に合わせて、最初の巻から読み始めた人が、それだけいるということだと思います。

新潮社の紹介文は、こうです。

> 
> 
> 「生きる」の意味を問う短編集。黄海に暮らす娘・琅燦と戴国から訪れた男の出会いを描く「異邦の客」、義のために人を殺めた麒麟・泰麒の苦悩を扱う表題作「幽冥の岸」ほか全4編を収録。
> 

（出典：新潮社 書籍ページ）

収められているのは「戦城南」「異邦の客」「夢の結び」「幽冥の岸」の四編です。

## 三人のお客様の鞄に、同じ文庫が入っていた夜

七年前、前作が出たころのことを、よく覚えています。

ある晩、たまたまカウンターに並んだ三人のお客様が、三人とも鞄から同じ文庫を取り出しました。

おたがいに面識はありません。

最初に気づいたのは、真ん中に座っていた方でした。

「あ」と小さく声を出して、両隣の手もとを見比べたのです。

そこから先は、私が口をはさむ隙もありませんでした。

どの国の話が好きか。

どの巻で泣いたか。

続きが出ない年月を、どう過ごしてきたか。

あの晩、私は、物語を待つというのは、こんなにも人を近づけるものなのかと驚きました。

ひとりで待っていた時間が、そのまま、知らない人どうしの共通の言葉になっていたのです。

## 今年の九月十七日

今年の発売日も、似たようなことがありました。

開店してすぐ、見覚えのある常連の方が入ってきて、カウンターに文庫を一冊置きました。

「今日は、一杯だけにします。帰って読むので」

そう言って、本当に一杯だけ飲んで帰っていきました。

いつもは三杯飲む方です。

二杯ぶんの売上は減りましたが、私はなぜだか、少しうれしかったのを覚えています。

七年待ったものを、家で静かに開きたい。

その気持ちのほうが、うちの店で過ごす時間より大事だという夜があっていい。

お酒の店をやっていて、こんなことを書くのは変かもしれませんが、 待った人だけが味わえる夜は、たしかにある のだと思います。

## 待たされた時間も、物語の一部になる

このシリーズは、続きが出るまでの間が長いことでも知られています。

私自身、二十代のころに、店の常連だった大学生から一冊目を借りて読み始めました。

そこから何年も、新刊の知らせを待つ側にいました。

待っている間に、読者の側も年を取ります。

学生だった人は働き始め、働いていた人は役職がついたり、店を始めたりする。

だから、久しぶりの新刊を開くとき、私たちは前の巻を読んだときとは、少し違う人間になっています。

紹介文にある「『生きる』の意味を問う」という言葉は、七年ぶんの自分の人生を抱えて読むと、また違った重さで響いてきました。

## 正直に書いておきたいこと

本書は、シリーズの本編を読んできた人に向けた短編集です。

国の名前、登場人物の名前、独特の漢字の言葉がたくさん出てきます。

シリーズを一冊も読んでいない方が、ここから入るのはおすすめしません。

まずは『月の影 影の海』から読み始めて、戴の国の物語まで追いかけてから、本書にたどり着くのがいいと思います。

道のりは長いですが、それ自体が楽しい道のりです。

また、新潮社の書籍ページによると、本書の電子版の配信は2026年12月11日からとなっています。

いますぐ読みたい方は、紙の文庫になります。

そして正直に書くと、私はまだ、四編のうち三編までしか読んでいません。

表題作の「幽冥の岸」だけ、まだ開いていないのです。

七年待ったのだから、最後の一編くらいは、もう少しだけ手もとに残しておきたい。

これは読了した感想ではなく、読んでいる最中の実況として受け取ってください。

## こんな人に向いています

・「十二国記」を読んできて、新刊を待っていた人

・長い物語に腰を据えて付き合ってみたい人（その場合は一冊目から）

・異世界の話の中に、人間の生き方を読みたい人

読み終えると、待っていた七年が、ただの空白ではなかったと思えるはずです。

物語の続きと一緒に、待っていた自分の時間も、手もとに戻ってくる感覚があります。

▼『幽冥の岸 十二国記』小野不由美（新潮文庫）

## 二冊目｜数える｜『春までのセンセイ』早見和真

双葉社／2026年9月16日／四六判上製／1,980円（税込）

著者の早見和真さんは、『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞、『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞を受けた作家です。

本書は発売前から話題になっていて、版元のお知らせでは「読書メーター1位」という言葉が掲げられていました。

2026年9月第4週には、丸善 丸の内本店の文芸部門で3位、紀伊國屋書店 新宿本店の文学・芸術部門で5位、丸善 日本橋店のフィクション部門で5位に入っていました。

三店とも、上位に名前があります。

物語の入口は、こう紹介されています。

> 
> 
> 東京都杉並区にある私立稜花女学院中学校。新年度に発表された3年E組の担任は、加賀美秀彦という中年の国語教師だった。最初は冴えないと思っていたけれど、先生の言葉はなぜだか心に響いてくる。それなのに夏休み直前、先生は病気で学校を辞めるというウワサが流れて……。
> 

（出典：PR TIMES 双葉社『春までのセンセイ』プロモーション動画公開のお知らせ）

3年E組、32人の生徒たちと、一人の先生の一年の話です。

## 「最後」が決まっている一年

この本を読んでいる間、私はずっと、冒頭の理科の先生のことを考えていました。

中学三年生の担任というのは、最初から終わりの日が決まっている仕事です。

四月に出会って、三月には必ず送り出す。

どれだけ気が合っても、どれだけ手を焼いても、春が来れば、その教室は解散します。

あの方が毎年言っていた「今年も、送り出しました」という一言には、一年ぶんの、数えていた日々が入っていたのだと思います。

本書の中学生たちも、ある時点から、残りの日数を意識しはじめます。

終わりが近いと分かると、人は急に、目の前のものをよく見るようになる。

先生のどうでもいい口ぐせや、黒板の字の癖や、授業の脱線話。

ふだんなら聞き流していたものが、一つずつ、かけがえのないものに変わっていく。

そこが、とても丁寧に書かれていました。

## 十五歳の彼女たちが、一人ずつ見える

本書の特設ページには、書店員の方々の感想が寄せられています。

その中に、こんな一文がありました。

> 
> 
> 読み終わっても、まだ泣いています。ボロ泣きです。15歳の彼女たち一人ひとりの気持ちがわかる。
> 

（出典：リアルサウンド ブック 書店員の感想紹介記事）

私が驚いたのも、まさにこの「一人ひとり」のところでした。

32人もいれば、何人かは名前だけの存在になってしまいそうなものです。

でも本書では、教室の後ろのほうで目立たずにいる子にも、ちゃんと、その子なりの一年がある。

カウンターにも、似たところがあります。

八席が埋まった忙しい夜でも、一人ひとりのお客様には、その人だけの今日がある。

全員の話を聞くことはできなくても、全員に今日があることだけは、忘れないようにしたい。

この本を読んで、二十年やってきた仕事の、いちばん基本のところを思い出させてもらいました。

## 一度だけ聞いた、教室の話

冒頭の理科の先生が、学校の話をほとんどしないことは書きました。

でも、一度だけ、少し長く話してくれた年があります。

その年の三年生には、一年間ほとんど口をきいてくれない生徒がいたそうです。

授業中も、面談でも、目を合わせない。

先生は、無理に話させようとはせず、ただ毎朝「おはよう」とだけ声をかけ続けた。

卒業式のあと、その生徒が職員室の前で待っていて、何も言わずに頭を下げて帰っていったのだそうです。

「一年かかって、一回お辞儀してもらえました」

先生はそう言って、笑いながらハイボールを飲み干しました。

本書を読みながら、私はあの晩の、少しだけ赤くなった先生の目を思い出していました。

## 先生の言葉は、なぜ響くのか

紹介文にある「先生の言葉はなぜだか心に響いてくる」という一文が、読む前から気になっていました。

読み終えて、私なりに思ったのは、この先生は、言葉の前に、ちゃんと待っているということです。

生徒が自分から何か言い出すまで、急かさない。

答えを先に言ってしまわない。

カウンターの内側でも、いちばん難しいのは、そこです。

お客様が何か話したそうにしているとき、こちらから「何かありました？」と聞いてしまえば楽です。

でも、本当に話したいことは、たいてい、二杯目の途中で、向こうから出てきます。

言葉が響く人は、言葉を待てる人 なのだと、この本を読んで思いました。

## 正直に書いておきたいこと

登場人物がとても多い小説です。

前半は、生徒たちの名前と顔が頭の中で一致するまで、少し時間がかかりました。

私は途中で、登場した順に名前を小さくメモしながら読みました。

また、先生をめぐるあるウワサから物語が動いていくので、病気の話題に触れたくない時期の方は、読むタイミングを選んだほうがいいかもしれません。

そして、帯や感想の言葉どおり、泣かされる場面がいくつもあります。

私は、開店前のカウンターで読んでいて、一度、本を閉じて顔を洗いに行きました。

電車の中で読むときは、少し気をつけたほうがいいかもしれません。

## こんな人に向いています

・学校という場所を、大人になったいま、もう一度外から眺めてみたい人

・人を育てる仕事、教える仕事をしている人

・泣ける小説が読みたいけれど、登場人物を大事にしている話がいい人

読み終えると、自分が十五歳だったころの教室の、名前も忘れかけていた誰かの顔を、一人くらい思い出すと思います。

そして、いま目の前にいる人との時間にも、いつか終わりの日が来ることを、少しだけやさしく思い出せるはずです。

▼『春までのセンセイ』早見和真（双葉社）

## 【空白の一時間】雨の火曜日、誰も扉を開けなかった夜のこと

三冊目に行く前に、少しだけ寄り道をさせてください。

二冊目を読み終えた週の、雨の火曜日のことです。

開店から一時間、誰も来ませんでした。

八席が全部空いている店で、私はまず、カウンターをもう一度拭きました。

さっき拭いたばかりなので、布巾には何もつきません。

次に、バックバーの瓶の向きを、一本ずつ確かめました。

ラベルがまっすぐ前を向いているか。

これも、開店前にやったばかりです。

氷を割る音も、シェイカーの音もしない店は、冷蔵庫の低い唸りと、雨どいを伝う水の音だけになります。

レコードの片面が終わって、針が上がる音が、思っていたより大きく響きました。

私は裏返さずに、しばらくそのままにしておきました。

誰も来ない時間に、何もしないでいるのは、二十年たっても難しいものです。

手が勝手に、仕事を探しはじめる。

その夜は、最上段の右の端から、あの「三月の瓶」を下ろして、もう一度拭きました。

閉店の二十分前に、ようやく扉が開きました。

入ってきたのは、近所の古い常連の方でした。

「さっき、前を通ったんだけどね」と、その方は言いました。

「窓から見えたよ。マスターがひとりで瓶を拭いてるの。なんか、絵になってたな。誰かを待ってるみたいで」

私は笑って、「仕事ですよ」と答えました。

実際、私にとっては、ただの手持ち無沙汰でした。

でも、外から見ると、それは「誰かを待つ人」の絵に見えるらしい。

待っている当人は、ただ時間をやり過ごしているだけなのに、見る側は、そこに物語を読み取ってしまう。

その夜、店を閉めてから、三冊目を開きました。

## 三冊目｜語られる｜『その犬をください』逢坂冬馬

KADOKAWA／2026年9月16日／320ページ／2,145円（税込）

今日の三冊のうち、これが「これから、もっと読まれていく」と私が思っている一冊です。

著者の逢坂冬馬さんは、『同志少女よ、敵を撃て』でアガサ・クリスティー賞を受け、2022年の本屋大賞にも選ばれた作家です。

発売からまだ三週間ほどですが、2026年9月第4週には、丸善 丸の内本店の文芸部門で4位、丸善 日本橋店のフィクション部門で9位に入っていました。

読んだ人が、これから誰かにすすめていく種類の本だと思うので、ここからさらに広がっていくはずです。

KADOKAWAの特設ページには、こう書かれています。

> 
> 
> 「犬は人間社会を映す鏡」人と犬の物語が浮き彫りにする、近代日本と戦争。
> 

（出典：KADOKAWA『その犬をください』特設サイト）

本書は、明治・昭和初期・戦中・令和を舞台にした、犬と人間の四つの物語からなる連作短編集です。

収められているのは、「未開の咆哮」「忠犬誕生」「犬たちの戦争」「スランプ」の四編。

逢坂さんが、初めて「日本の戦争」に正面から取り組んだ作品だと紹介されています。

## 一編目は、明治の初めから

一編目の「未開の咆哮」は、明治の初め、日本にやってきた英国人の教師ジョージが主人公です。

紹介によれば、その彼が浪人に行く手をふさがれるところから、話が動き出します。

筋は書きませんが、読みながら私が感じたのは、外から来た人と、そこに暮らす人とでは、同じ一匹の犬を見ていても、見えているものが違うということでした。

この一編で、本書の「犬は人間社会を映す鏡」という言葉が、すっと腑に落ちました。

鏡に映っているのは犬ではなく、その犬を見ている人間の側なのです。

## 「忠犬誕生」という題の、すごみ

私がいちばん長く本を閉じられなかったのは、二編目の「忠犬誕生」でした。

舞台は、昭和7年の渋谷駅です。

駅で毎日、帰らない主人を待ち続ける一匹の老犬がいる。

その姿が人々に知られていき、やがて「忠犬」として大きな話題になっていく。

私たちが子どものころから知っている、あの犬の話です。

でも、この短編の題は「忠犬」ではなく、「忠犬誕生」です。

犬はただ、そこにいただけかもしれない。

それを「忠義」の物語に仕立てたのは、見ていた人間たちのほうではないか。

筋の詳しいところは書きませんが、 待つ姿に意味を与えるのは、待っている本人ではなく、それを見ている側 なのだと、この一編は静かに突きつけてきます。

前の晩、窓の外から「誰かを待ってるみたいで」と言われたばかりの私には、ずいぶんこたえました。

## もっとも近い「他者」

特設ページには、逢坂さんのメッセージが載っています。

その一部を引きます。

> 
> 
> 他者との対峙を通じてのみ自己を理解することが可能であるならば、犬こそは、人間が常に己と対峙させ続けた、もっとも近い「他者」に他なりません。
> 

（出典：KADOKAWA『その犬をください』特設サイト）

犬は、人間の言葉を話しません。

だから人間は、犬の行動に、自分の見たいものを好きなだけ読み込むことができる。

忠義も、健気さも、勇ましさも。

本書の四つの物語は、時代ごとに、人間が犬に何を読み込んできたかをたどっていきます。

そして、それがいちばん危うい形で表に出たのが、三編目の「犬たちの戦争」で描かれる時代でした。

戦時中、飼い犬が国に差し出されていった時代のことを、私はこの本で初めてちゃんと知りました。

## 令和の最終話が、いまにつながる

四編目の「スランプ」は、令和の春が舞台です。

進学校に通う高校生が、「戦争」への恐怖から学校に行けなくなる話だと紹介されています。

書評家の吉田大助さんは、特設ページにこう寄せていました。

> 
> 
> 「希望の作家」が書いた犬と戦争の物語。令和日本を舞台にした最終話に、その真髄を見た。
> 

（出典：KADOKAWA『その犬をください』特設サイト）

明治から順番に読んできて、最後に、自分たちの生きているいまに着地する。

その構成のおかげで、過去の話を「昔のこと」として閉じてしまえないようになっています。

ライターの瀧井朝世さんの「守るべき命についてのリマインド本」という言葉も、読み終えてみると、とてもよく分かりました。

## 正直に書いておきたいこと

犬が出てくる小説だからと、心がなごむ話を期待して手に取ると、驚くと思います。

戦争の時代を扱う編は、読んでいてつらい場面があります。

私は三編目を読み終えたあと、その夜はそれ以上読み進められず、最終話は翌日の昼に読みました。

また、四編で時代が大きく飛ぶので、一編ごとに頭を切り替える必要があります。

ひとつながりの長編を読みたい方には、少し落ち着かなく感じられるかもしれません。

2,145円という価格も、気軽に買える値段ではありません。

それでも、四編を読み終えたときに見える景色は、その価格に見合うものだと私は思いました。

## こんな人に向いています

・犬が好きで、犬と人間の関係を、少し違う角度から考えてみたい人

・『同志少女よ、敵を撃て』を読んで、著者の次の作品を待っていた人

・戦争の話を、遠い歴史ではなく、いまの自分の話として読みたい人

読み終えると、身近な美談に出会ったとき、「これは誰が、どう語った話なのだろう」と一歩引いて考えるようになると思います。

それは冷たくなることではなく、語られなかった側に、目を向けられるようになることです。

▼『その犬をください』逢坂冬馬（KADOKAWA）

## 三冊の使い分けと、読む順番

三冊とも小説なので、読む順番に決まりはありません。

ただ、私のおすすめは、二冊目、三冊目、一冊目の順です。

二冊目の『春までのセンセイ』は、どなたでもすぐに物語に入れます。

三冊目の『その犬をください』は、四つの短編なので、一編ずつ区切って読めます。

一冊目の『幽冥の岸』は、シリーズを読んできた人にとってのごほうびのような一冊なので、未読の方は『月の影 影の海』から、腰を据えて始めてください。

一冊だけ選ぶなら、こう考えてみてください。

久しぶりに小説を読みたい、泣ける話がいいなら、二冊目の『春までのセンセイ』。

読み応えのある短編集で、歴史といまをつなげて考えたいなら、三冊目の『その犬をください』。

「十二国記」を読んできて、続きを待っていたなら、迷わず一冊目の『幽冥の岸』。

持ち歩きやすさで言えば、文庫の一冊目がいちばん手軽です。

三冊を読んで、共通していると感じたことがあります。

どの本も、「待つ」ことを美しい話だけでは終わらせていないことです。

一冊目は、待たされた年月ごと、読者の人生に入り込んでくる。

二冊目は、終わりの日を数えながら、目の前の一日を見つめさせる。

三冊目は、待つ姿を美談にしてしまう人間のくせを、はっきり見せる。

待つことは、きれいなことでも、悲しいことでもなく、ただ、人がしてしまうことなのだと思います。

## おわりに

先週の金曜日、思いがけない時間に扉が開きました。

九月の終わりです。

入ってきたのは、あの理科の先生でした。

二年半ぶりでした。

先生は、いつもの奥から二番目に座ると、少し照れたように笑いました。

「三月じゃないのに、来ちゃいました」

私は最上段の右の端から「三月の瓶」を下ろして、ハイボールを一杯つくりました。

先生は、一口飲んでから、ぽつりと話してくれました。

この二年、三年生の担任を外れていたこと。

送り出す生徒がいない三月に、ここへ来る理由が見つからなかったこと。

「理由がないと、来ちゃいけない気がしてたんです。勝手に決めてたんですけど」

私は、何も言えませんでした。

勝手に決めていたのは、私も同じだったからです。

この二年、私の頭の中で、先生は「来なくなってしまった人」でした。

体を壊したのか、店が嫌になったのかと、いくつもの物語をこしらえて、瓶を拭きながら、その物語の中で待っていました。

駅で待つ犬に「忠義」を読み込んだ人たちと、やっていることはそれほど変わりません。

本当は、先生はただ、来る理由を探していただけだったのに。

三冊を読んで、そして先生の話を聞いて、私の中で一つ、はっきりしたことがあります。

待つ側がしてはいけないのは、待つことそのものではありません。

相手が来る理由を、こちらで勝手に決めてしまうことです。

「三月の瓶」という呼び名も、もしかしたら、その一つだったのかもしれません。

先生が帰ったあと、私はその瓶を、最上段の右の端から、手の届きやすい二段目へ移しました。

そして、心の中で「三月の瓶」と呼ぶのを、やめることにしました。

ただの一本のシングルモルトに戻った瓶は、前よりずっと軽く見えました。

来る理由は、来る人が決めればいい 。

扉はそのために、毎晩、理由を聞かずに開いています。

あなたが久しぶりに誰かを訪ねたくなったときも、たぶん、理由はいらないのだと思います。

## 出典・参考にしたページ

・新潮社 書籍ページ『幽冥の岸 十二国記』

・リアルサウンド ブック「十二国記」シリーズ7年ぶり最新作『幽冥の岸』刊行

・PR TIMES 双葉社『春までのセンセイ』プロモーション動画公開のお知らせ

・リアルサウンド ブック 早見和真『春までのセンセイ』書店員の感想を特設サイトで公開

・KADOKAWA『その犬をください』特設サイト

・カドブン 逢坂冬馬『その犬をください』9月16日発売

・日経BOOKプラス 話題の本 書店別・週間ランキング（2026年9月第4週）

## 今日の三冊

▼『幽冥の岸 十二国記』小野不由美（新潮文庫）

▼『春までのセンセイ』早見和真（双葉社）

▼『その犬をください』逢坂冬馬（KADOKAWA）

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**출처:** [note 원문](https://note.com/bartender566/n/nb38f4136cb16)

*번역: Gemma 3(.44) 초벌 + 교정 검수*

[원문 보기](https://note.com/bartender566/n/nb38f4136cb16) | 출처: note.com