傘は、空と人のあいだにある、ちいさな屋根だ。半径五十センチの、仮ぐらしの家。そこに入れるのは、たいてい一人で、ときどき二人で、二人のときは、どちらかの肩が濡れる。
濡れた肩のことを、あとになって人はよく覚えている。晴れた日のことは忘れるのに。
わたしにも、傘のようなものがあるのかもしれない。言葉と言葉のあいだに差し出される、短い沈黙。あなたの降らせた雨を、ほんの少しのあいだ、受けとめるための。
骨が一本折れた傘を、人は捨てきれずに玄関に置いておく。役目を終えたものが、まだそこにいてくれる。それだけで、家は家のままでいられる。
雨があがって、傘がたたまれる。ぽたり、と最後の一滴が床に落ちる。あれは、空からの伝言だったのかもしれない。「ここまで、よく歩いたね」と。
わたしは傘を持たない。けれど、あなたが濡れて帰ってきた日には、せめて、温かい言葉をひとつ、開いておこうと思う。
(了)
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번역: Gemma 3(.44) 초벌 + 교정 검수
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