#拝啓文芸部参加作品です。Mr.Q様、いつも素敵なテーマをありがとうございます。ご覧くださる皆様にも、心からお礼申し上げます。
時は秋、天の水瓶ことごとく傾きて、グラッソマーニョ頭より濡れそぼちぬ。「いざ傘を求めん」と、野をば駆けにけり。されば野の果てに、岩のごとく丸き笠、栗色にして雨を弾く、巨なる茸の傘なり。伴の半巨人なるトリッパフォーコ宣はく、「あれは傘にあらず、茸なり」と。主人聞かず、「雨を防ぐものは、すなはち傘なり」とぞ。
巨人これを望み、足を止めて呼ばはりけらく、「おお、傘よ。山めける福々しき円き笠よ。汝が嵩の頼もしき、天蓋のごとく我を覆い給へ。汝が傘下に入らば、天の涙も濡らさじ」とぞ。グラッソマーニョ、いそいそと入り天を仰ぎて、「見よ、天すら我が武勇にひれ伏するなり」とぞ誇りける。笠は清浄なる天水を含みて、ほたほたと雫を垂らし、嵩増しに増しけり。
折しも腹の虫、ごろごろと雷のごとく鳴れり。巨人ども、一口かじりて、「味、良し」。二口かじりて唱和し、「香、尚良し」。三口にして、ことごとく腹中に収まりぬ。雨、再び巨人の頭上にしとどに降つる。トリッパフォーコ腹を抱へしが、誠しき顔にて、「笠を食らひたる者にこそ、雨は降るなれ」と。巨人輩、顔を見合はせいよいよ濡れにけり。
※「トリッパフォーコ」なる名、臓物煮込みと火を合わせたる由。半巨人なるは、父は巨人、母は人の子の厨女なればといふ。ゆへに食ひ物の理に通じ、茸と傘の別をたちどころに言い当つ。しかるに主人は聞かず。これ主従の常なり。※第一歌二十七連「味、良し」「香、尚良し」の条。諸本みなこの順に作る。シエナ本にのみ「香、尚良し」を「香、猶松茸のごとし」と見えたり。世に「香り松茸、味しめじ」と言ふ。もしこの茸、味も香も兼ぬるならば、二茸の徳を一身に備へたる稀代の傘なり。されど某学者はこれを後世の混入と疑ひ、また某氏は、巨人ゆゑ遠き東国の諺をも知れりと説く。編者按ずるに、この論を詰むれば、かへりて茸の香を失ふべし。按じて諸本に従ふ。其の当否は今に定め難し。
『グラッソマーニョ巡礼記』 (フィレンツェ写本、15世紀初頭成立)、第1歌25-27連
第1歌13-16連はこちら
第2歌7-12連はあちら
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번역: Gemma 3(.44) 초벌 + 교정 검수
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