今年のノーベル化学賞。アンリ・カガン先生と硤合憲三先生の研究について、分かりやすい解説を読んでみました。
「生命をつくるアミノ酸は、なぜ左手型なのか?」
分子の中には、右手と左手のように、鏡に映した関係にありながら、どう向きを変えても重ね合わせられないものがあります。この性質を「キラリティー」と呼びます。
左右を選ぶ仕組みがない化学反応では、右手型と左手型の分子が同じ量だけできることが多い。ところが、生命がタンパク質をつくるときに使うアミノ酸は、左右の区別がないグリシンを除き、基本的に左手型のL型でそろっています。
右手型も左手型もでき得るのに、生命はなぜ左手型を使うようになったのでしょうか。そして、どのような過程を経て片方にそろったのでしょうか。
硤合先生が発見した「不斉自己触媒反応」は、この謎を考えるうえで、とても興味深い反応です。できあがった分子自身が触媒となり、自分と同じ型の分子をさらに作ります。しかも、最初の左右の差がごく小さくても、その偏りが反応を通じて増幅され、最終的にはほぼ片方だけになるのです。
「少し多い方が、同じ仲間をさらに増やす」。この仕組みによって、わずかな差から大きな偏りが生まれることを、実際の化学反応として示した点が面白いと思います。
ただ、ここでさらに疑問が浮かびます。 「では、最初に左手型が少し多くなったのは、なぜ?」
この問いは、「小さな偏りがどう増幅されるか」とは分けて考える必要があります。硤合反応は、左手型が少し多ければ左手型を、右手型が少し多ければ右手型を増やします。したがって、この反応だけで、生命が左手型を使うようになった理由まで説明できるわけではありません。
最初の偏りを生み出す仕組みについても、研究は進んでいます。たとえば2023年には、左右が等量のRNA前駆体を磁鉄鉱の表面で結晶化させ、片方を優勢にする実験が報告されました。生命が生まれる前の地球でも起こり得る経路を示した研究です。
ただし、「起こり得る仕組みを実験で示すこと」と、「現在の生命が実際にその経路をたどったと確定すること」は、証拠の段階が違います。2025年の研究論文でも、生命の分子が片方の型にそろった起源は、なお未解明とされています。
薬理学の立場からも、分子の向きは身近で重要な問題です。薬が結合する受容体や酵素にも立体構造があるため、鏡像関係にある分子でも、作用の強さや代謝のされ方が異なることがあります。同じ原子からできていても、空間的な配置によって、生体との関わり方が変わるのですね。
生命の大きな謎に、具体的な化学反応から迫る。そして、一つの仕組みが明らかになることで、次に解くべき問いもはっきりする。こういうところに、基礎研究の面白さを感じます。
まずは、右手と左手のたとえで読める日本語の紹介から。さらに詳しく知りたい方には、公式解説と関連論文も。
▼ノーベル賞公式の一般向け解説(英語) https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2026/popular-information/
▼東レ科学振興会の受賞研究紹介(日本語・以前の東レ科学技術賞について) https://www.toray-sf.or.jp/information/170214.html
▼最初の偏りと、その増幅を考える2025年の研究論文 Cross-Catalysis and Weak Interactions: Keys to the Chiral Polarization of the Biosphere https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41036836/
▼磁鉄鉱の表面でRNA前駆体を片方の型にそろえた2023年の実験研究(全文公開) Origin of biological homochirality by crystallization of an RNA precursor on a magnetic surface https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10246896/
출처: note 원문
번역: Gemma 3(.44) 초벌 + 교정 검수
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